【第2話】木のマイスターと出会った

2018年春に千葉でイベントを主催したいと言う老紳士と出会った。この方をF氏と申し上げよう。いつも通りの初回顔合わせを行った。何やら僕の事を気に入ってくれたらしく、ある日杉で出来たブロックを見せてくれた。聞けばそのF氏が所有する工場で作ったものだと言う。加工精度の高さ。材木を知り尽くした設計思想。国産材尊重の精神。

僕はすぐにピンときた。長年待ち焦がれていた理想のパートナーが現れたのだと。

F氏の工場にお邪魔する約束を取り付けた。聞けば灯台下暗し同じ千葉市でも同じ若葉区、我が社から車でわずか15分程度の距離にその夢の工場は存在していた。

工場に入って見渡せば、整然とした道具の様子。材木工場と木工所の両方が出来る大型小型の設備群。これだけの設備投資には少なくとも1億円そしてこれを操作する職人を育てるには数年は必要であろう。

この工場は僕が木製トラスを製作するにあたって課題視していた技術や思想を間違いなくクリアしてくれる。そう確信し工場内を眺め思わずニヤニヤしている僕に気づき、F氏が言った。

「渕さんは仕事が好きなんですね。私もそうなんですよ。」

そう言うF氏の顔に微笑のシワが刻まれていた。

【F氏の経営する工場の一角】